Sune Mortensen
Sarlota Hohwald
LSEG の最新のリサーチでは、ウェルス業界の潮流について詳しく取り上げ、2024 年以降の主要な業界動向を分析することのできる実用的なインサイトを提供します。シリーズ第 3 回目となる今回は、AI に対する投資家の信頼に焦点を当てます。
- 2023 年、LSEG はウェルス業界における投資目的の変化と新たなトレンドの理解を深めるために、調査実施に資金を提供
- ウェルス業界の変化に伴う影響について、世界の投資家を対象としたアンケート調査を実施
- 今回のインサイトでは特に、AI に対する投資家の信頼について考察
AI に対する投資家の信頼を調査
ウェルス業界の進化、およびこれがアドバイザーや投資家、ウェルス・マネジメント企業、ブローカーなど業界のステークホルダーにおよぼす影響について考察するシリーズの第 3 回目では、AI に対する投資家の信頼に焦点を当てます。
5 つの主な調査結果:
- 投資プロバイダーは AI によって業務のあり方が変わると考えている:
69% もの投資プロバイダーが、「AI によって業務のあり方が大きく変わる」と回答しています。
加えて、プロバイダーのほぼすべてが、AI による自動化が「進んでいる」(48%)、または「導入中」(44%) と回答しています。
導入の初期段階にあるのは 8% に留まり、計画中と答えた回答者はわずか 1% でした。
AI は投資を取り巻く環境を再構築する
- 回答者は AI を「利用したい」、または「ある程度利用したい」と考えている:
調査では、さまざまな業務について AI 活用のプロセスを「利用したい」か、または「ある程度利用したい」かとの設問を設けました。
その結果、すべての調査対象地域において:
* AI 活用プロセスを「利用したい」または「ある程度利用したい」と回答した割合が最も高かったのは「商品・サービスのリサーチ」で、欧州・中東・アフリカ地域では 91%、北米では 92%、アジア太平洋地域では 95%となった。
* その割合が最も低かったのは、「運用ポートフォリオの直接的な管理で、それぞれの地域で 43%、54%、43% となった。
- AI の利用は一部の業務分野においては、まだ現実的ではない:
投資助言、投資リサーチ、フィナンシャル・プランニング、詐欺行為の検知などの業務分野における、AI 活用プロセスの導入状況についての設問では、これら全項目で導入済みと回答した割合は半分未満でした。「導入済み」の割合が最も高い分野は、投資リサーチ (46%)、および投資助言 (44%) です。
企業は 3 年以内には主要な業務分野で AI を導入するだろうと考えており、回答企業の半数以上が同期間内にファイナンシャル・プランニング (50%)、投資リサーチ (51%)、投資助言 (56%) の分野で AI を導入する見込みだと回答しています。
業務によっては、AI の活用に依然消極的な分野がある
- 北米の投資家は業務への AI 導入において、他の地域よりも前向き:
多くの業務分野においては、依然として AI の導入に消極的ですが、北米の投資家は、以下の業務でより AI を活用しようとする傾向があります。
* 商品・サービスのリサーチ (アジア太平洋地域 13%、欧州・中東・アフリカ 14% であるのに対して、北米は 29%)。
* ポートフォリオのリバランス (アジア太平洋地域 12%、欧州・中東・アフリカ 14% であるのに対して、北米は 23%)。
- 投資を取り巻く環境は AI によって再構築されるだろうという見方は広く共通していますが、以下のような地域差が明確に存在:
北米の投資家は、大手のリテーラーあるいはテクノロジー企業を通じて投資を行う傾向が他の地域よりも大幅に小さく、回答割合でみると、欧州・中東・アフリカでは 53%、アジア太平洋地域では 54% であるのに対して、北米では 45% となっています。
また北米の投資家は、テクノロジーの進歩により 2030 年までに投資アドバイザーが不要となると考える割合が、他の地域よりも大幅に低くなっています (欧州・中東・アフリカでは 57%、アジア太平洋地域では 56% であるのに対して、北米では 48%)。
より詳細な分析
次に、上記の主要調査結果を踏まえ、これらのインサイトがウェルス業界の企業にとってどのような意味を持つのかについて掘り下げます。
上記の調査結果は、AI が投資を取り巻く環境を再構築しつつあり、今後もその勢いがますます強まっていくことを裏付けています。投資プロバイダーの 69% が、AI によって業務のあり方が一変すると考えていることからも、業界が大きな変貌を遂げつつあることは明らかです。加えて、回答企業の大多数が AI 導入を進めており、遅れを取っている企業はごくわずかです。
投資プロバイダーは AI によって業務のあり方が変わると考えている
これは、AI を投資プロセスに組み入れようとする意欲が全般に高いことから裏付けられています。とはいえ、投資プロセスのあらゆる分野においてテクノロジーを信頼しているわけではなく、多くの回答企業が商品・サービスのリサーチへの AI 導入を受け入れている一方で、投資ポートフォリオの直接的な管理においては、AI 活用を支持する投資プロバイダーの割合は大幅に低下しています。
これは、テクノロジーへの信頼は依然十分とはいえず、大部分の投資家がポートフォリオ管理に関する意思決定においては、人間の判断を重要視していることを示唆しています。このことから、今後はデジタルと投資助言のハイブリッド・モデルが優勢となると当社は考えています。
特定の分野においては AI の導入が遅れている一方、回答企業の多くは今後 3 年で主要な分野で導入が進むことを確実視しています。このことは、ウェルス業界で AI 導入が引き続き活発となることを示しています。
他方、地域差は明らかに存在しており、北米の投資家は主要な分野について、アジア太平洋地域や欧州・中東・アフリカの投資家とは異なる見方をしています。
興味深いことに、北米の投資家は特定の投資活動において、他の地域の投資家よりも AI を活用しようとする傾向があり、テクノロジーの進歩により投資アドバイザーは不要となると考える割合が大幅に低くなっています。
このことも、ハイブリッド型の投資モデルが支持されていることを示しており、投資の新常識の下では、投資アドバイザーと、自主運用型投資家向けプラットフォームの両方にとって、十分な市場と機会があることがわかります。
本リサーチについて
本リサーチは ThoughtLab が実施し、全世界規模で 2 種類のアンケート調査を行いました。一方は投資家 2,000 名 (国、資産レベル、年齢、ライフスタイル、職業、性別などの属性は問わない) を対象としたもので、もう一方は投資プロバイダー 250 社の経営幹部を対象としたものです。
主な調査分野には、財務アドバイスの役割の変化、経験が投資家の行動におよぼす影響、投資における AI とその活用に対する姿勢、サステナブル投資分野における格差などが含まれます。
本リサーチは、アジア太平洋、欧州、中東、北米の 4 つの地域をカバーしています。資産レベル別で見ると、最も割合が大きかったグループはマス富裕層 (25%) と富裕層 (25%) で、その次が超富裕層 (18%) でした。年齢別では、X 世代 (31%) のグループが割合として最も多く、次いでベビー・ブーム世代 (30%) が位置しています。
リサーチには、独立系のウェルス・アドバイザー、プライベート・バンク、地方銀行や国際銀行のウェルス・マネジメント部門など、さまざまなウェルス・マネジメント企業 250 社の経営幹部を対象としたベンチマーク調査も含まれています。
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