データ&アナリティクスのインサイト

リスク指標としてのセンチメント: 効果を最大限に発揮する時とは

Dr Svetlana Borovkova

Head of Quant Modelling at Probability & Partners and Finance Professor at Vrije Universiteit Amsterdam

Probability & Partners とのコラボレーションでお届けするシリーズとして、今回のインサイトでは、センチメントが個別株、コモディティ、セクター、グローバル・マーケット・インデックスなど多様な分野において、異なるタイミングで、いかに強力なリスク指標となるかについて解説します。主なポイントは以下の通りです。

  1. センチメントが、リスクの早期警告シグナルとしてグローバル規模でどのように最も効果的であるか
  2. 新型コロナウイルス感染症拡大、2007 ~ 2008 年の金融危機、2023 年の銀行を巡る混乱という 3 つの主要な例から知る、くすぶり型のリスクと急激なショックの違い
  3. 貴重なリスク情報を提供するニュース・センチメント・シグナルの価値

リスクの早期警告指標としてのセンチメント

本シリーズの前回のインサイト (英語) では、グローバル株式市場における主要国経済と政治イベントのメディア・センチメントへの影響について考察しました。ネガティブ・イベントはより早くセンチメントの強い反応を引き起こすことが観察され、それが優れたリスク指標となります。このことは、金融と投資のセンチメントの役割に関する 10 年におよぶ私たちのリサーチにおいて、一貫した調査結果として現れています。

リサーチによると、センチメントは個別株、コモディティ、セクター、グローバル・マーケット・インデックスなどさまざまな分野で、異なるタイミングで強力なリスク指標となることが明らかになっています。しかしセンチメントが早期のリスク警告シグナルとして最も効力を発揮するのは、根底にある問題が長い時間をかけて大きくなり、ますます表面化・深刻化する場合です。

2020 年前半に始まった新型コロナウイルスの発生は、センチメント指標の有効性を示す重要な事例です。2020 年 1 月から 2 月にかけて、グローバル株式インデックス (S&P500、FTSE100、STOXX50、STOXX200 など) のセンチメント指標は、緩やかながら大幅に低下しました。この低下は典型的な下降トレンドと比較すると、スピードと規模が異なっていました。2020 年 2 月には、「コロナウイルス」や「新型コロナウイルス感染症」などの言葉が多く使われるようになったのと時を同じくして、センチメント指標の低下は加速したものの、センチメント指標が低下しても、しばらくの間、株式市場における目立った変化は起きませんでした。しかし新型コロナウイルス感染症への懸念が高まる中、2 月 19 日には主要な株式市場が全て暴落し、センチメントと株価が同時に下落したことで、状況は一変しました。  

図表 1: S&P500 の終値とセンチメント・レベルの比較、2019 ~ 2020 年

ニュース・センチメント指標

それ以前に起きた 2007 ~ 2008 年の金融危機は、センチメント指標の予測力を示すもう 1 つの事例です。センチメント・システミック・リスク指標 (SenSR) は、システム上重要な金融機関 (SIFI) に関連するネガティブなセンチメント指標を集約したもので、LSEG News Analytics を活用して、国際金融システムに関連する知覚リスクをモニタリングします。2007 年の数カ月にわたり、ニュース・センチメント指標は徐々にではあるものの一貫して知覚リスクの増加を示しました。同じ目的のために使用される VIX や LIBOR-OIS のスプレッドなど他の指標は、リーマン・ブラザーズが破綻するまで反応がありませんでしたが、その時点で金融危機はすでに進行していました。ニュース・センチメントにおける同様の早期警告の増加は、2011 年の欧州債務危機の前にも見られました。

図表 2 SenSR (センチメント・システミック・リスク指標) (青) と VIX (黒) の比較、2006 ~ 2014 年

それらの事例は、ニュース・ソースのセンチメント・シグナルの利用に強い優位性があることを浮き彫りにしています。適切に処理され、ノイズを除去されたシグナルは、主要な株式市場とコモディティ市場のセンチメントをモニタリングするのに利用できます。そうしたシグナルはリスクの早期警告システムとして機能し、相場が値を下げる前に、関連する株式市場や影響を受けるセクターから資金を引き上げるよう投資家に警告を発する可能性があります。

しかし、センチメントが早期警告指標として、それほど効果的でない場合もあるのでしょうか。ネガティブ・イベントが突然、前触れもなく発生するシナリオを考えてみましょう。このような状況下では、事前に情報が漏れていない限り、センチメント・シグナルはそのイベントを予測するのではなく、イベントに反応する (ただし、日中などに迅速に) 可能性があります。そのため、センチメントの早期警告の可能性の違いは、主にリスク・イベントの性質、すなわち徐々に影響をもたらす「くすぶり型」であるか、急激な「サドン・デス」であるかに左右されます。

ニュース・センチメントと 2023 年の銀行を巡る混乱

2023 年の銀行を巡る混乱は、その良い例です。ニュース・センチメントが、2023 年における米国と欧州の大手銀行の相次ぐ破綻に対してどのように反応したかを見てみましょう。図表 3 は、2023 年の年間の金融セクターのセンチメント (マイナスの SenSR など) ですが、3 月におけるセンチメントの大幅な低下が、米国の複数の銀行の破綻の時期と一致していることを示しています (3 月 8 日: Silvergate Bank、3 月 10 日: Silicon Valley Bank、3 月 12 日: Signature Bank、3 月 15 日および 19 日: Credit Suisse の破綻危機とその後の UBS による同社の買収)。より明確にするために、3 月のイベントに注目してみましょう (図表 4)。

図表 3: 金融システム・センチメント、2023 年

図表 4: 金融システム・センチメント、2023 年 2 月~ 3 月

金融セクター内のセンチメントの悪化は、2023 年 3 月 1 日に始まりました。同月 3 日までには、センチメントが劇的かつ急速に低下し、銀行の混乱が差し迫っていることは紛れもなく明らかでした。これは、投資家が銀行やその他の金融機関の保有資産を減らし、世界の金融規制当局が注意を払うための貴重なシグナルとなりました。当初は疑念があったとしても、3 月 5 日には、システム上重要な金融機関 (SIFI) に関連するセンチメントによって、深刻なイベントが起こりつつあることが極めて明白になりました。3 月 8 日以降は、センチメントの下落が加速し、マイナス領域に入りました。

興味深いことに、このイベントの影響を受けた銀行は、Credit Suisse でさえも、SIFI のリストには含まれていませんでした。

それでは、センチメントが悪化し始めた 3 月 1 日から、最初の銀行破綻が起きた 3 月 10 日までの間に何が起きたのでしょうか。3 月 1 日、Silvergate Bank は規制当局への開示書類において、十分な自己資本を有する銀行としての地位を失うリスクと、事業継続能力に関するリスクに直面していることを明らかにしました。比較的小規模な銀行からの規制当局への申告が、多くの投資家が気づかない全体的なリスクの高まりを示唆し、国際金融システムに関するセンチメントに影響をもたらしたことは注目に値します。3 月 8 日、Silvergate Bank は債券売却を発表し、これがその後の銀行の取り付け騒ぎを引き起こし、ニュース・センチメントがさらに悪化しました。

銀行の株価のみを考えた場合、危機が国際金融システムに波及したのは、米国のあらゆる銀行の株価が暴落した 3 月 13 日であるように見えるかもしれません。しかし、国際金融システムのセンチメントは、この危機について 2 週間近く前に警告シグナルを発していたのです。

センチメントの悪化は、バイデン大統領が声明で人々を安心させ、UBS による Credit Suisse 買収が公表された 3 月 18 日以降に落ち着き始めたものの、ニュース・センチメントが従来の正常な水準に戻ったのは、夏の終わりでした。

終わりに

新型コロナウイルスの流行と世界金融危機はいずれも、「くすぶり型」のリスクをグローバル規模で、しばしば他の経済指標や金融指標に現れるより早く検知するという、ニュース・センチメント・シグナルの真価を実証しています。ニュース・センチメントは、株式市場がこうしたリスクに反応する数週間あるいは数か月前に悪化することがよくあります。その一方で、2023 年の銀行を巡る混乱で実証されたように、突然の予期せぬリスクがセンチメントに検知されるのは、イベント発生時ではないとしても、わずか数日前の可能性があります。金融市場に関連するセンチメントの追跡の際にこの違いを認識しておくことは非常に重要です。いずれの場合でも、センチメントは極めて貴重なリスク情報を提供しますが、後者についてはやや遅れることになります。

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